◆ かくれんぼ ◆
作:メイリン
「用意はいい? じゃあ、スタート!」
高らかな声に、寮から一斉に乙女が駆け出した。
後に残ったのは琥珀、和樹、美鈴、桔梗、鴉、月湖。連絡係の琥珀と桔梗は置くとして、他の4人は鬼だ。
何をやっているのかといえば、王都エレスチアルを駆け巡るかくれんぼ。兼、鬼ごっこ。
姿を見かけて、妖精にテレパシーを頼めば鬼の勝ち。参加賞にと配られた紅茶をポケットにしまいこみ、一緒に隠れている参加者を見つけ出す。
ごく、簡単な遊び、なのだが。
「さーて、誰から狩ろうかなー」
「美鈴ちゃん、極悪……」
「気にしない気にしない。そのためのデスサイズだし」
刃はついていないデスサイズ。飾りに近いものだが、逃げるウサギと狩人という図ならふさわしかろうと、冗談のつもりで持ち出したのだが。
「じゃあ、私は中央広場から南下してみるわ」
「それじゃあ私は南町へ」
「私は寮周辺を」
はじめの鬼は、企画したスタッフの中から数名。そのほとんどが、面白がってデスサイズを片手に持っている。
「さーて、いくわよー」
ウサギが隠れる猶予時間。待ち構えていた狩人たちは、連絡のために残る二人に手を振って駆け出す。
「………あ、あら?」
寮を出たところで美鈴の足が止まる。寮の隣、ちょっとした物陰。それでも視界のいい場所。
「コル、お願い」
『はーい、いってきまーす』
「みつかったー」
「待ち構えておいて見つかった、もないでしょう?」
「桜嬢、捕獲したと琥珀さんへ連絡して」
自分の妖精に依頼して、「じゃあ、これであなたも鬼ね」とにっこり笑みを交わし。
すぐに戻ってきた妖精とともに馬車に飛び乗る。目指す先は中央広場、探すはウサギ、刈り取るのは紅茶。
「Sweet, LaLa Sweet, LaLa 真っ赤な Fruits」
ご機嫌にウサギを探して駆け抜ける。身軽に、スカートの裾を翻し。物騒な歌を歌いながら、道の間、家の間を飛び回る。
「あ、いた。コル!」
『はーい』
ウサギさんを見つけては、妖精に頼んで捕まえてもらう。
やがて留守番の琥珀から、ウサギ全員捕縛の連絡が入るまで、彼女はそうして飛び回っていた。
乙女寮、ロビー。留守番の二人と、戻ってきた数名の参加者。
「意外に早く終わったねー」
「まったくです」
妖精に頼んで他の参加者へ連絡してもらいながら、待つ間にざわざわとおしゃべりをする。
「逃げ切れる人がいないなんて」
「鬼の勝ちー」
やがて参加者もぞろぞろと戻ってきて、並びだすスタッフ。
「ねー、琥珀さん。もう一回やりたい」
「あ、私もー」
「私も私も! 今度は逃げ切る!」
「あ、今度は逃げたいー」
「今度は鬼やっちゃだめ?」
並びながらも、参加者、スタッフともににぎわしい。
「じゃあ、時間も早いしもう一回やろうー! でもその前に表彰!」
「はーい」
わいわいがやがや、にぎやかな中で発表される『賢いウサギ』賞と、『敏腕狩人』賞。発表は主催者の琥珀と和樹で、表彰文の読み上げは美鈴で………と、事前にスタッフの中で打ち合わせておいたのはいいのだが。
「じゃあ、『敏腕狩人』賞の受賞者はー」
誰だろう、といった、わくわくとした空気の中。
「がぉー!」
「にぎゃあっ!?」
突然隣からつつかれて、美鈴はべちょりと転ぶ。
「なにすんね!」
「お前じゃー!」
「えー」
「スタッフが勝ってどうする!」
「知るか!」
ぎゃんぎゃんと言い合いをするのは仲がいいからだろう。
「和君、進まないから」
「とりあえず表彰」
「…………え、ちょっと待って、それ私自分で読み上げるの?」
「表彰係あんたでしょ?」
「うわーん、文面考えたの私じゃないものー」
スタッフは仲がいい。仲がいいのはいいのだが、美鈴は読み上げてから悲鳴を上げる。
「これ考えたの私じゃないものー!」
「はいはい。賞品選べ」
ずらりと並べられた武器類。ひとつだけ異色を放つハリセン。
周りの視線が明らかにハリセンに集中する中で、美鈴は「うーん」と少し考えた末に呟いた。
「レイピア」
「そこはハリセンを選べよ!」
「私は芸人じゃない!」
「芸人だろ!」
「ほらー、二回目やるよー」
ぎゃんぎゃんと騒がしい言い合う二人をとめたのは琥珀の一言。
これから参加しても大丈夫かしら、と眺めていた人たちに目印の紅茶を配り、二回目の準備。
「次こそ逃げ切るぞー!」
「うふふ、逃がさないわよー。狩るわよー」
「賢いウサギさんになる……!」
「今度こそお姉様を!」
にぎやかな乙女たちの夜は、まだまだ更けない。
結果はレポートを御覧あれ。